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事業内容

第7回講演会石川一郎氏(2007.6.13)講演内容

青山学院大学経済学部同窓会

第七回講演会

「日本の政治はどう変わっていくのか?」

日時:平成19年6月13日(水)

講師:日本経済新聞社 編集局次長
石川 一郎氏

はじめに
天野会長
6月は各企業は株主総会の季節。石川さんは政治がらみの編集局次長という大変ご多忙な中、本日ご講演を頂く事になり深謝します。
世間は参院選挙もさることながら、年金問題で大変な時期。その中で今後政治がどう動いていくかをお話いただけると思う。

講演概要

自己紹介をします。80年に大学を卒業して日本経済新聞社入社。実は社名にある「経済」の取材は殆ど経験がない。91年の故金丸信氏の北朝鮮訪問に同行、以来朝鮮半島問題に関わりソウルにも駐在した。
その後、03年〜05年名古屋の編集部長を経験、名古屋は当時非常に元気な街で、いろいろな企業の方と話す機会を得て、政治とは違う観点からも勉強することが出来た。

1.「政治の一寸先は闇」が現実となった安倍総理
 最近の安倍総理は「一寸先が闇」という言葉が現実的なものになってきている。4月には内閣支持率も上向き、参院選も乗り切れるというムードだったが、年金問題の表面化や、松岡農相の自殺問題などで状況は一変した。
昨年9月26日に発足した時点では日本経済新聞の世論調査で71%という支持率があったが、下がる一方だった。その理由は2つある。   
 ①郵政造反議員の復党問題
  90年代の橋本龍太郎政権も支持率は高かったが、ロッキード疑惑の佐藤孝行氏を総務  
  庁長官に任命した時から支持率が下がった。この人事は中曽根康弘氏の要請であったのだが、人事を間違えた事で失速。
  郵政造反組はもともと安倍総理には近い立場の人達。安倍氏は総理就任後、造反派を復党させるつもりでいたが、復党後あっという間に支持率が急落した。
 ②道路財源を一般財源化する問題
  小泉政権時代に出来なかった事を実現しようとしたが、結局08年に揮発油税込み  
で見直すという程度で決着したが、このつまずきも原因。
 
 この支持率急落で、「安倍組みやすし」の印象を永田町・霞ヶ関に与えてしまった。内閣支持率は4月に若干回復したが、その後年金問題がクローズアップされ、社保庁の杜撰さの露呈が火に油を注いだ。
庶民の感覚は憲法改正は先の事として捉えているが、年金は目先の問題として重要。自公支持者であっても、内閣不支持の人が多いのは政権にとって「危険水域」である。
国会は6月23日までが会期、与党は重要法案をたくさん残しており、このままでは23日までの成立はかなり難しい状況。安倍氏は国家公務員の天下りを制限する国家公務員法改正案を「今国会中に通す。」と明言しているので、実行できないと政治責任問題になる。参院選を当初予定通りの7月22日に実施するには、6月28日までの会期延長は可能。更に延長となると選挙自体の日程を変更する必要が出てくる。一般的には夏休みに入ってしまうので、8月の選挙はしないというのが常識的な判断だが、改選議員の任期である7月28日まで延長して、その後 8月26日に選挙というスケジュールも考えられなくはない。いずれにしても、ここ1週間ぐらいがヤマ場。(6月21日時点で、与党は12日間の延長を決め、7月5日までの会期になる。参院選は7月29日予定)
   
  一部には衆議院を解散してダブル選挙という予想も出ているが、安倍総理が決断する可能性は高くはないだろう。

2.安倍総理はどんな人?
  第一印象は殆どの人が「良い人」という印象を持つ。但し安倍氏は第一印象とは異なり、非常に頑固で「敵味方識別装置」のようなものを先天的に持っている。 
  安倍氏の人事三原則として、①保守であること、②自分の為に汗をかいてくれる人、
  ③義理と人情のある人、の3点であるがその中でも特に①を重視している。現内閣で
  リベラル派といえる人は殆どいない。 
  1997年に安倍氏らが中心になり「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」という会を発足させた。主に、教科書問題や拉致問題等で日本の立場を貫けという基本姿勢の会だが、当時の執行部の大部分が現政権のメンバーとなっているのは事実だ。
  

3.天下分け目の参院選
  参議院の242議席の内、今回半分の121議席が改選になる訳だが、その内訳は次の
  通り。つまり比例区48名、選挙区73名である。選挙区73名の内、一人区が29区、
  複数区が18区あり合計73議席となる。
  複数区では二人区の場合、与党・野党1名づつというのが一般的な選挙結果であるので、一人区でどれだけ議席を獲得出来るかがポイントとなってくる。
  現在衆議院は自公の与党で2/3を占めるが、この数字が意味を持つ。つまり衆議院で
  可決⇒参議院で否決の結果の場合、再度衆議院で議論して2/3の賛成が得られれば、
  法案を可決出来るという仕組になっている。
  但し、参議院で与党が過半数を割ると参議院議長及び議員運営委員長等も野党から出す事になるので与党主導で進められなくなる。これは憲法59条で規定されている事
  だが、「衆議院で法案通過後、参院で60日以内に採決されないと否決とみなす。」という規定があるとはいえ、野党がゴネる事で法案が審議未了・廃案となる可能性が強く、  与党が過半数を取っていないと不都合が出てくる。
  現在のような参議院での与野党伯仲の勢力地図は実は1989年に遡って出来上がって
  いる。当時は消費税導入、牛肉・オレンジ自由化、リクルート問題等で竹下政権が
  退陣、宇野政権での参院選で自民党が36議席しか獲得できず、大幅な過半数割れという事態を招いた。
今回の参議院での非改選議席は与党57、野党63と現時点では野党が上回っており、今回の改選で与党が過半数を維持するためには64議席が必要。公明党がうまく行けば13議席程度と予想されているので、自民党は54議席必要。前回の04年の小泉フィーバー時の選挙でさえ自民党は49議席しか獲得できず苦戦が予想される。29ある一人区で18〜20議席は確保せねばならない。
   しかしながら、自民党がだめだから民主党に票が集まるかと言うとそうでもない。民主党の党首である小沢一郎氏は90年代の日本政治地図の中心にいた。当時は良くも悪くも「小沢対反小沢」の構図で政治が推移してきたが、最近は健康面で問題を抱えており、多分今回が最後のチャンスと考えているはず。
   
  自民党は党内で二人の政治家を大事にしろ、という声があった。一人は民主党の小沢一郎氏で、もう一人は国民新党の綿貫民輔氏。その心は「小沢氏がいる限り民主党はまとまらない。」また「自民が過半数割れした場合は、国民新党を与党に迎え入れよう。」という腹積もりがある。国民新党も安倍総理がアプローチしてくるなら話し合う余地はあるのだろうが、仮に自民獲得議席が40程度だと、国民新党を加えても過半数にはならない。国民新党も政局のキャスティングボートを握れないことになってしまう。
  安倍総理は現与党が過半数を割ったら、政界再編しかないと踏んでいるだろう。但し中選挙区時代は比較的簡単に再編が可能であったが、小選挙区でそれを実現しようとすると極めて難しい問題も孕んでいる。

4.安倍総理のライバルは?
  今回の選挙で自民議席が宇野総理時代の36議席を割り込むのはもちろん、40台前半になると、安倍氏もかなり苦しくなる。しかし「ポスト安倍」となると、なかなか候補者がいない。敢えて言えば麻生太郎氏ぐらいだが、どうなるか。保守本流を自認してきた「宏池会」は古賀、麻生、谷垣の3派に分裂したが、谷垣氏も最近あまり目立たない。
  ダークホースとしては福田康夫氏がいる。福田氏は最大派閥である「清和会」の一員だが、独特の味わいを持っている福田氏がショートリリーフで登板する可能性も残っている。
  但し、小泉政権以来「派閥」の持つ意味が薄れてきている。昔は派閥の会長が所属議員の選挙資金も含めて全て面倒を見ると言う構図であったが、最近は党内人事も派閥調整等がなくなり派閥の会長であることのメリットがなくなってきている事は事実。

5.目下の大問題は?
  安倍総理が意欲的に取り組んでいるのは憲法改正など「国のあり方」や戦後レジームからの脱却などである。構造改革など経済問題にはあまり発言もなく、というスタンスを持っている。
  小泉前総理は小渕総理時代のケインズ的政策の失敗後に登場。構造改革に取り組み、  金融機関の不良債権問題処理に真剣に取り組んだ。その結果景気も回復し、税収も増える事になり、安倍総理がこのタイミングで小泉氏から政権を引継いだ事はある意味でラッキーであった。その結果、経済問題よりも自らの持論である憲法改正を中心に取り組めた。
  
  安倍政権発足時から閣僚の不祥事が相次いでいる。政府税調会長であった本間氏は愛人同居問題で辞任、佐田行政改革担当相は所属政治団体の不明朗会計問題で辞任  と不祥事が続き、更に松岡農相の「ナントカ還元水」問題により追い詰められた。
  更には柳沢厚労相の「女性は産む機械」発言、久間防衛相の「イラク戦争批判」発言
  なども続出。松岡問題は自殺という形で決着がついてしまったが、辞任という形で  決着をつけたら、ドミノ的に政権が失速する事は予測できた。

  しかしながら、やはり今の最大の問題点は「年金問題」。安倍氏はこの問題でかなり
  追い込まれているはずだ。もともと安倍氏というのは公務員や官僚への不満が強く、今回の年金問題も社保庁勤務の公務員の怠慢という事で、公務員に対して矛先を向ける良いチャンスとなっている。

  松岡氏の自殺による参院選への影響はそう大きくないと考えている。同氏の自殺から
  わずか2週間で、世間はもう冷めつつある事や、民主党から見ると攻撃の対象がいなくなった事で、逆に自民から小沢代表に矛先を向けて来るのではないか、という不安も持っている。

昭恵夫人のことについても少し触れるが、彼女は非常に明るい人でその明るさに
  安倍氏はずい分救われているのではないか。
小泉氏は何かを質問してもワンフレーズの回答で、「明るい無責任さ」が持ち味であった。小泉氏は参院選でも自民党の最終兵器であると思うが、再登板はまずないと見ている。05年の衆院選挙ではあれだけの大胆な事をやっておきながら、任期切れになるや辞めてしまうというのは、如何にも小泉氏らしい。  

 本日はいろいろ喋りすぎましたが、以上参院選に向けての今後の政局展望をお話させて
 頂きました。

                                    以上  

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