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事業内容

第3回講演会上野泰也氏(2006.05.11)講演内容

開催日時:平成18年5月11日
講  師:みずほ証券チーフマーケットエコノミスト 上野 泰也氏
テ ー マ:内外経済とマーケットの今後

1)初めに=自己紹介=
  私はみずほ証券の市場営業グループという部署に勤務しており、ディーリングル-ムに席をおいており、マーケットの観点でマクロ経済を分析するという仕事をしている。
  マーケットエコノミストという肩書きになっているが、日本で初めてこの呼称を使った人間だと思う。
  昨年(05年度)は為替については予想がビタリと当った。一方金利については個人的にはあまり上がらないという見方をしているので、若干苦戦している。
  一般的には経済に対する見方が楽観的すぎる印象を受ける。人口問題、増税問題、米国の赤字問題、ドル不安等重い問題が山積みになっており、この様な問題を抱えて本当に将来順調か?という疑問もあり、その辺りを論じてみたい。

2)企業トップの年頭所感から読めること
  私は毎年、各企業トップの年頭所感を読み、彼らのメッセージから共通項を引き出すようにしている。
  例えば昨年の東芝社長の年頭所感3つのポイントから読み取れるメッセージは、
  ①コスト構造改革と安定収益の確保。
   メッセージ:日本企業の欠点は業績が良くなるとコストに甘くなる。無駄な設備投資、人件費アップを経験してきたが、これを止めリストラ続行をするという表明。
  ②戦略的商品を市場投入して成長事業化を行う。
   メッセージ:日本企業の横並びを止め、「選択と集中」に注力してメリハリをつける。
  ③海外事業の強化拡大 
   メッセージ:日本も人口減の時代になり、内需は伸びにくくなることへの対策。(一例として自動車販売台数も伸び悩み状態。)
  06年度の年頭所感も同様な事を言っているが、今年のキーワードは「価値」。今やボリュームで勝負する時代ではなく、質の勝負で自社を勝組にしたいという各社の意思が表れている。
  日常商品を例にあげると、酒類は将来的に消費量が減る事が予想されているので、「量から質」への転換が求められている。また牛乳も少子化の影響でニーズが減少しており、廃業に追いやられる生産業者が出て来る可能性もある。
  「衣・食・住」毎に現状を分析すると、
  衣・・・デザイン等の付加価値をつける事でマーケットはキープされているが、
      購入量には限界が見え始めている。
  食・・・需要は減少傾向。
  住・・・日本全体では人口減少気味だが、都市圏に人口が集中するなど局地的には増えている。
  いずれにしろ長い目で見ると「衣食住」全ての分野で先行きは暗い。

3)景気動向について
  私は常に辛口エコノミストと言われている。若干天邪鬼的な立場でもあるが、本日の日経記事も「企業業績回復」という主旨だが、内容をよく読むと業績伸び率が鈍化しつつある。具体的には、06年3月の上場企業経常利益伸び率は20%であったが、  07年3月期は0.1%でほぼ横這いのデータとなっている。
  景気は変化率で見るべき。例えばGDPが550兆円で翌年も550兆円だった場合、高水準での推移とも言えるが、結果的に「ゼロ成長」でしかない。「水準」ではなく、どれだけ「成長」したかを見るべきなのにマスコミの報道はその辺りの咀嚼が足りないような気がする。以下4点程、私の分析を説明する。

  ①企業業績の伸び率は鈍化傾向
  最近各企業とも人件費はベアではなくボ-ナスで調整しており、企業のボーナスの伸びは減速傾向。05年冬は05年夏よりも水準が下がっている。これは企業業績が鈍化している事の現れ。良いところだけ見ると高い水準であるが、一方悪い企業もある。
  ある意味で「格差型景気」といえる。ミクロで見るのではなくマクロの数字で分析して行く事が必要。
  ボーナスの伸びが鈍れば、消費の伸びも当然ながら減速。例えば業績好調のトヨタでさえ、06年度春闘では人件費はマイナス傾向。連結では好調だが、国内での自動車販
  売の鈍化を海外でカバーしている状態。国内の売上が伸びないという事は、国内人件費は圧縮される。
  設備投資を見ると、企業は収益が伸びた結果のキャッシュフローを投資に回している訳だが、当期収益をそのまま投資に回すという事ではなく、過去の利益を投資に回している。その事から考えれば、しばらくは設備投資が継続するが、秋頃からは各企業とも慎重になってくることが予想される。

  ②雇用は数だけで計れないという事
  雇用については団塊世代の穴埋めとして企業は新卒の採用を増やしている事は事実。
  データとしての失業率も4.1%程度にまで減少している。その意味では雇用不安が薄れ消費マインドがポジティブになっている事は認めるが、一方雇用は数では計れない事も事実。つまり団塊世代1名退職に対して新卒2名採用しても、最近の業績給与体系から見れば、必ずしも人件費増にはならない。成果評価、業績連動型給与等から考えると、将来的には雇用者報酬はマイナス水準になってくる可能性もある。
  また、団塊世代の消費が伸びるだろうとマスコミは煽っているが、マクロ的にみてそれほどの押し上げ要素にはならないだろうと考える。勿論ミクロの世界では多少の消費増はあると思う。

  ③株高による過剰楽観論
  現在の株高は根が強い。下げ始めると一気に下がるという事もないし、下値抵抗力は以前より強い。しかしながら日本の株は諸外国に比べ割高。PER(株価収益率)も日
  本企業は平均して22~23倍で、外国株の15~17倍に比して高く過大評価しすぎている。では将来的にどうなるかという点については、07年度企業増益率見通しは先ほどの日経記事通り0.1%、日銀短観でも2.6%程度。収益率が鈍化すれば、通常株価は下がるはずだが、外国人投資家が「買い」に入っている。バブル崩壊後、何度も日本経済には騙されてきたが、今回の回復は本物だとの見方が外国投資家の主流。小泉政権時に8,000円を割った株価も踊り場脱却宣言で上向き予想が出て、外国人買いが集中しているというのが現状。(昨年は10兆円超の買いが入った。)昨年8月の踊り場脱却宣言や、9月の郵政解散選挙でも小泉政権が圧倒的支持を受け、外国人の買いが更に高まった。デフレ脱却宣言の見通しがあることもまた拍車をかけている。
  但し、楽観論であれ悲観論であれ、いずれも行き過ぎは良くない。現在は楽観論がかなり行き過ぎ状態にあり先行きを懸念する。例えば半導体や液晶の需要もサッカーワールドカップ終了と共に過剰感から在庫調整で減速する可能性があるし、米国経済の減速、為替の円高懸念等、今年後半は景気減速感が強まると思う。
  今後何があるかというと、「いざなぎ越え」が一つのポイント。今年11月がそのタイミングとなる訳だが、現在の状況から見れば「いざなぎ越え」はほぼ間違いない。但しその後、つまり一つの目標を達成してしまった後の反動がどうなるか懸念材料となる。
  今年9月のポスト小泉政権がどうなるのか、改革路線を引き継ぐものと思われるが、「格差」等構造改革のひずみをどう調整して行くのかが課題。ひずみの調整が遅れると改革の推進力が弱まる。07年度参院選挙は自民が敗北するだろうとの見方が強い。
  小泉政権発足後の参院選で自民は圧勝しているが、07年度はそれだけの議席確保は難しいとの見方。従って外国人投資家の期待感も弱まり、株価も下げ傾向に行くだろうとの予測がある。

  ④増税問題
  今後の問題として指摘しておかねばならない問題は増税問題。定率減税はすでに廃止が決定、これは2年間で3.3兆円の増税効果があるといわれている。近い将来の消費税増税で、2%アップして約5兆円の税収増。細かい増税もある。
  以上のトータルで約9兆円の増税となるが、これだけの増税があれば景気に対する悪影響は間違いなく出てくる。但し一つの救いは財務省が小出しに増税策を実施している事。定率減税も段階的に導入し、消費税も「必要だから税率をアップさせる」という前宣伝をきっちりしているので、巧妙な政策を採っている。

3)物価動向
  日銀短観は企業の経常利益伸び率が鈍化すると指摘、また電子部品在庫も高めに動いているため先行きに対する懸念はある。
  デフレ脱却の論議も盛んに行われているが、現在の物価高はコストプッシュ型。例えば原油価格上昇により、精製メーカーがコストを転嫁して物価を押し上げる形となっている。つまり、「需要増」による物価上昇ではなくコストアップによる価格上昇。
  従い、最近の物価は見せかけのデフレ脱却にすぎない。日本政府も同様の見解を示している。
  現在の需要と供給の関係を示すと次の通りになる。川上(原材料段階)では供給過剰気味であるが、川下(消費者段階)の需要が伸びていない。デフレというのはまさに供給過剰の状態であり、服に例えれば、人間の体が縮んでいるのに高級生地で仕立てた大きめな洋服を着せてダブダブ状態にするのと一緒。
  原材料価格の高騰で価格を製品に転嫁したいが、小売段階で供給過剰な為高い商品には買い手がつかないというのが現在の状況と言える。
  以前デフレ対策の論議の中で、03年ごろデフレスパイラルになるならないで大論争が行われた。一方はリチャード・クー氏等の財政出動派の意見で、財政を出して体を一度大きくすれば服と体はフィットするので、その後然るべき政策を採れば良いという 
  考え方。もう一方の考え方は、竹中平蔵氏等の緊縮派で、体が縮んだ状態になったのなら服(供給)も縮めれば良いという考え方。つまり企業淘汰論になる。私はこのどちらの考え方にも無理があると思う。前者は当然無理な発想であるが、後者の企業淘汰論も無理がある。つまり、体を縮まると服を小さくし、また更に体が縮むと更に服を小さくしと、次第にデフレスパイラルに落ち込む。従って竹中氏は、このハードランディング的な発想でなく、銀行に公的資金を注入し不良債権問題を少しずつ解決させるというソフトランディング路線を選択した。
  つまり日本はまだ服と体の間に隙間がありすぎる。この隙間をどう埋めるかが今後の課題。人口減、高齢化は体を縮ませる方向に動く。従い少子化対策等により体が縮むのを避ける対策や、服の方も調整していく政策は必要になってくる。
  尚、インフレ加速については当面あり得ないと思われる。現行のCPIは00年度を基準年度したものだが0.5%と発表されており、近々05年を基準年に変更する。そうなると品目入れ替え等があり、CPIも0.2%程度になる可能性もあり。いずれにしろ、原油高によるコストプッシュ型インフレの状態が続くだろう。

4)マーケット動向
  金利予想については苦戦していると申し上げたが、年初1.1~1.7%と予想していた金利動向も1.5~2.0%に修正予想を行った。当面2%を節目とした金利攻防が続くと考えるが、理由は日銀が利上げをするだろうとの市場予測からきている。
  為替については年初105円~120円と予想したが、これは比較的良い感じで動いている。元々私は民間企業に転職後、為替ディーラーとしてスタートしたが、為替を扱っているうちに為替市場の動きにはテーマ性がある事がわかった。
  05年2月からは「金利」がテーマとなった。金利水準が高い国の通貨が買われ、金利 が下がると売られるという傾向が強い。最近は米国の利上げ終息観測が強く、金利がテーマとなる流れは徐々に変わり始め、替わって「不均衡」がテーマとなってきている。例えば米国の経常赤字問題について言えば、「貿易収支の赤字」でドルを海外に支払い、海外からは米国に対する投資で「資本収支の黒字」でバランスさせてドル相場が安定している。
  以上の様に為替は非常に扱いづらいシロモノで、昔は「貿易収支」を指標として為替を売買、その後「雇用統計」「金利」等その時々のテーマが相場に影響を与えてきた。
  先般のG7では「グローバルな不均衡」という特別声明の発表があり、これでマーケットは米国赤字への懸念から今はドル売りに流れている。また日銀がゼロ金利解除から円金利を上げるような事になれば、ドルは対円でも売られる可能性が強くなる。しばらくはドルが不安定な状態が続くだろう。
  株価については、諸外国に比してもPERが高いという事、外国人買いも上限に近い 状態で目標を失いつつあるという事から考えると、今後はもみ合い後若干調整要因が働き、株価が下がる事も予想される。

5)必要な政策とは?
  利上げについては、日銀は焦って動く必要はないと思う。ゼロ金利解除はまだ先の話で良いのでは?7月のゼロ金利解除可能性としてはせいぜい30%程度と思われる。
  現在の日本経済の最大課題は人口減等への対応も含めた「財政の再建」である。年金問題で言えば、既に削減の限界レベルまできており、地方への補助金問題でも補助金削減すれば地方段階で課税が行われ、どこかで負担がかかっている事には変わりない。
  「増税」と「ゼロ金利」はどちらが深刻か?という世論調査では増税の方が大問題だとの認識をしている。預貯金金利ゼロはしばし我慢出来るとの意見が多い。
  日銀の本音としては「金利上げ」を焦っている。3月に量的緩和策を解除したが、再び株価下落等があると量的緩和策を復活させざるを得ない。従い日銀としては、現時点で少しでも利上げを実施して、何かあったら調整して金利を引き下げるというシナリオを考えているが、金利上げを実施するかどうか腹を決めかねている。私個人としてはもうしばらくこの状態で構わないと考えている。

6)「構造転換」が好きな日本人と変わらぬ「循環」の存在
  冒頭で日本には楽観論が過ぎると述べたが、世間の期待感が強すぎる印象を受ける。
  ・デフレ脱却云々が巷では言われているがわずか3年ほど前には、世界的にデフレ感
  が強く、金利は下げ傾向で真っ暗な状態であった。それ以前の歴史を見ても、デフレ感が強まったさらに3年程前の00年頃はITバブルの真っ盛りで、ネット関連の株価が上昇した。
  ・更にその3年程前は、橋本内閣において財政再建に注力されていた。
  ・その5年程前は、まさにバブル期。土地神話等で日本経済が絶頂期を迎えていた。
  ・その5年前の85年はプラザ合意により円高へ向かった時代。
  以上数年単位で波が訪れている。
  一方、最近の企業は財務体質を改善したり、リストラの継続を行ったりしており、その努力には敬服するが行過ぎた楽観論はやはり注意すべきであろう。
  今から2年後の08年には北京五輪、消費税引き上げタイミング、米国大統領選挙等の要因がいろいろ出てくる。

  最後に過去4代の歴代総理在任中、株・債券・為替それぞれの動きを見ると「株安・債券高・円安」のパターンと「株高・債券安・円高」のパターンが交互に来ている。
  橋本総理は前者のパターン、小渕総理は後者のパターン、以下森総理は前者、小泉総理は後者のパターンという繰り返しになっている。
  小泉総理退陣後の次の総理は誰か不明だが、このパターンから想定するに、「株安・債券高・円安」の環境下の総理となるのでは…?

                                     以上

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